一人暮らしのこれから:もしもの時の手続きを整理しておきましょう
はじめに:もしもの時への備えは、あなた自身の安心につながります
一人暮らしで毎日を大切に過ごされている方も多いことと思います。同時に、ふと「もしも、自分に何かあったら…」と、将来への漠然とした不安を感じることもあるかもしれません。特に、自分にもしものことが起こった際、残されたご家族や大切な方が、どのような手続きをすれば良いのか分からず困ってしまうのではないか、という心配をされる方もいらっしゃいます。
もちろん、先のことを考えすぎる必要はありませんが、少し時間を取って必要な情報を整理しておくことは、いざという時に慌てずに済むだけでなく、準備を進める過程でご自身の頭の中も整理され、かえって今の安心につながるものです。
この記事では、一人暮らしの方にも知っておいていただきたい、もしもの際に必要となる手続きの全体像と、今からできる具体的な情報整理のポイントについてお話しします。
もしもの時に必要となる主な手続きとは?
万が一の際、故人に代わって様々な手続きを行う必要があります。一人暮らしの場合、これらの手続きを誰か(多くはご家族や親戚、あるいは事前に定めた方)が担うことになります。主な手続きには、以下のようなものがあります。
役所関係の手続き
- 死亡届の提出: 亡くなられた方の住民票がある市区町村役場に提出します。これを受理してもらうことで、火葬や埋葬の許可が得られます。
- 世帯主変更届: 世帯主がお亡くなりになった場合、新しい世帯主を届け出る必要があります(一人暮らしの場合は、この手続きは不要となることが多いです)。
- 国民健康保険・後期高齢者医療制度: 資格喪失の手続きや、葬祭費・埋葬料の申請などが必要になる場合があります。
- 介護保険: 資格喪失の手続きが必要です。
公共料金・通信費などの手続き
- 電気、ガス、水道: 契約の名義変更や解約手続きが必要です。
- 固定電話、携帯電話、インターネット: 契約解除の手続きが必要です。
- 放送受信契約(NHKなど): 解約手続きが必要です。
医療・介護関係の手続き
- 医療費の精算: 未払いの医療費があれば精算が必要です。
- 介護サービス契約: 利用していたサービスの解約手続きが必要です。
金融機関関係の手続き
- 銀行、ゆうちょ銀行、証券会社など: 口座の凍結(手続き開始後)や解約、名義変更、預貯金の払い戻し手続きなどが必要です。
保険関係の手続き
- 生命保険、医療保険など: 保険金の請求手続きが必要です。
年金関係の手続き
- 年金受給権者死亡届: 年金の受給を停止する手続きが必要です。
- 遺族年金、死亡一時金: 受給できる可能性がある場合、申請手続きが必要です。
その他契約関係の手続き
- 賃貸住宅: 賃貸契約の解約手続きが必要です。
- サブスクリプションサービス: 継続課金されている様々なサービスの解約手続きが必要です。
- クレジットカード: 解約手続きが必要です。
- 各種会員サービス: 必要に応じて解約手続きを行います。
遺品整理・住まい
- 自宅の片付け: 遺品の整理や、賃貸の場合は原状回復、持ち家の場合は将来の売却や処分などを検討する必要があります。
- ペットがいる場合: もしペットを飼っている場合は、新しい飼い主を探したり、委託していた施設への連絡などが必要になります。
これらの手続きは多岐にわたり、それぞれに提出書類や期限が定められている場合もあります。必要な情報がすぐに取り出せるように整理しておくことが、残された方の負担を大きく減らすことにつながります。
今からできる具体的な情報整理のポイント
では、具体的にどのような情報を、どのように整理しておけば良いのでしょうか。特別なことではありません。ご自身の「もしも」の時に必要となるであろう情報を、分かりやすい場所にまとめておくことです。
1. 大切な情報のリストを作成する
以下の情報について、契約内容や連絡先、ID・パスワードなどを一覧できるリストを作成しましょう。
- ご自身の情報: 氏名、生年月日、本籍地、マイナンバー、年金手帳番号、健康保険証番号など
- 親族、友人、お世話になっている方などの連絡先: 氏名、電話番号、メールアドレス、続柄や関係性など
- 医療・介護に関する情報: かかりつけ医、服用中の薬、アレルギー、既往歴、利用している介護サービスなど
- 金融機関に関する情報: 銀行名、支店名、口座番号、名義、印鑑、インターネットバンキングのID・パスワードなど(通帳やキャッシュカードの場所も)
- 保険に関する情報: 保険会社名、保険証券番号、契約内容、連絡先など(保険証券の場所も)
- 年金に関する情報: 年金手帳番号、年金事務所の連絡先など
- 不動産に関する情報: 自宅の登記簿謄本(持ち家の場合)、賃貸借契約書(賃貸の場合)の場所など
- 公共料金・通信費などの契約情報: 会社名、お客様番号、引き落とし口座、連絡先など
- クレジットカード、サブスクリプションサービスなどの契約情報: カード会社名、カード番号、サービス名、契約内容、ID・パスワードなど
- その他契約情報: スポーツクラブや習い事の会員情報、利用している見守りサービスや緊急通報サービスの契約情報など
- デジタル資産に関する情報: パソコン、スマートフォン、SNSアカウント、メールアドレス、オンラインストレージなどのID・パスワード、データの場所や希望など
- ペットに関する情報: ペットの種類、名前、生年月日、かかりつけの動物病院、フードや療養食、もしもの時の預け先や希望など
- お葬式やお墓、遺影などに関する希望: 形式、場所、呼んでほしい人、納骨先、使用してほしい写真など
これらの情報を、ノートやパソコンのファイルなどにまとめておきます。手書きのノートでも、簡単な表計算ソフトでも構いません。大切なのは、ご自身が書きやすく、後で見返しやすい方法で作成することです。
2. 大切な書類の保管場所を決める
上記のリストに書いた情報に加え、以下のような大切な書類の保管場所を明確にしておきます。
- 戸籍謄本・抄本
- 住民票
- 年金手帳
- 健康保険証・介護保険証
- 預貯金通帳、キャッシュカード
- 印鑑証明書、実印
- 不動産の権利証、登記簿謄本
- 生命保険証券、医療保険証券
- 賃貸借契約書、重要事項説明書
- 遺言書(作成している場合)
- エンディングノート(作成している場合)
これらの書類を一つの場所にまとめておく必要はありませんが、どこに何があるかをリストに書き加えたり、特定の場所にまとめて「〇〇関連書類」のようにラベリングして、場所を知らせるだけでも大きな助けになります。
3. 誰に、何を知らせておくかを決める
これらの情報を整理したら、最も大切なのは「誰に」この情報を「どこに」まとめてあるかを知らせておくか、ということです。
- 信頼できるご家族
- 頼れる親戚
- お世話になっている友人
- 成年後見制度などを利用している場合は後見人
- 弁護士や行政書士など、将来を託す専門家
これらのうち、少なくともお一人は、もしもの時にあなたに代わって動いてくださる方でしょう。その方に、「万が一の時は、〇〇というファイル(またはノート)を〇〇という場所に保管してあるので見てください」と伝えておくだけで、その後の対応がスムーズに進みます。
リストや書類のコピーをその方に渡しておくことも有効ですが、情報の更新が必要になった場合のことを考えると、保管場所を知らせて、定期的に内容を確認してもらう方が現実的な場合もあります。個人情報が多く含まれるため、信頼できる方を選ぶことが最も重要です。
4. 定期的に見直す
作成したリストや保管場所は、時間が経つにつれて内容が変わる可能性があります。例えば、銀行口座が増えたり減ったり、加入している保険が変わったり、お付き合いのある方の連絡先が変わったりすることもあるでしょう。年に一度など、ご自身で時期を決めて、内容を見直したり更新したりすることをおすすめします。
専門家への相談も検討する
手続きの中には、法律や相続、税金などが関係してくる複雑なものもあります。もし不安が大きい場合や、信頼できるご家族などがいない場合は、以下のような専門家に相談することも考えてみましょう。
- 行政書士: 相続関連の手続き、遺言書作成サポートなど
- 司法書士: 不動産の相続登記、成年後見制度など
- 弁護士: 相続争い、遺言執行など
ご自身の状況や希望に合わせて、適切な専門家を選ぶことが大切です。地域包括支援センターなどでも、専門家への相談窓口を紹介してもらえる場合があります。
おわりに:今の安心のためにも、できることから始めましょう
もしもの時の手続きについて考えることは、少し気が重いと感じるかもしれません。しかし、これは決して「縁起でもないこと」ではなく、これからのご自身の人生をより安心して過ごすための、前向きな準備の一つです。
すべてを完璧に準備する必要はありません。まずは、ご自身の銀行口座や加入している保険について、どこかにまとめてみることから始めてはいかがでしょうか。そうすることで、ご自身の状況が整理され、漠然とした不安が具体的な準備へと変わり、心が少し軽くなるのを感じるはずです。
そして、この準備は、あなたの大切な方が将来困らないように、という優しさの表れでもあります。ご自身のため、そして大切な方のためにも、できることから少しずつ、情報の整理を進めてみましょう。それが、今の安心、そして未来の安心につながっていきます。